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神戸地方裁判所 平成5年(行ウ)33号 判決 1997年8月25日

神戸市中央区北長狭通三丁目七番三号

原告

大栄住宅株式会社

右代表者代表取締役

岡本清一

右訴訟代理人弁護士

羽柴修

高橋敬

神戸市中央区中山手通二丁目二番二〇号

被告

神戸税務署長 西佐古国雄

右被告指定代理人

森木田邦裕

西浦康文

辰田肇

加藤英二郎

檜原一

主文

一  請求一、三及び四に係る訴えをいずれも却下する。

二  本件のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成元年六月三〇日付けでした昭和六〇年三月一日から昭和六一年二月二八日までの事業年度(以下「昭和六一年二月期」という。)の法人税についてした更正のうち所得金額を三九五万六三六五円として計算した額を超える部分及び昭和六一年三月一日から昭和六二年二月二八日までの事業年度(以下「昭和六二年二月期」という。)の法人税についてした更正のうち所得金額を五二〇万三九四八円として計算した額を超える部分をいずれも取り消す。

二  被告が平成二年六月二二日付けでした昭和六一年二月期の法人税についてした更正のうち所得金額を三九五万六三六五円として計算した額を超える部分及び昭和六二年二月期の法人税についてした更正のうち所得金額を五二〇万三九四八円として計算した額を超える部分をいずれも取り消す。

三  被告が平成元年六月三〇日付けでした原告の昭和六二年三月一日から昭和六三年二月二九日までの事業年度(以下「昭和六三年二月期」という。)の法人税についてした更正のうち所得金額を損失金四五二四万二八六七円として計算した額を超える部分、重加算税賦課決定及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

四  被告が平成二年六月二二日付けでした原告の昭和六三年二月期の法人税についてした更正のうち所得金額を損失金四五二四万二八六七円として計算した額を超える部分、重加算税賦課決定及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

五  被告が平成二年一〇月二二日付けでした原告の昭和六三年二月期の法人税についてした更正のうち所得金額を損失金四五二四万二八六七円として計算した額を超える部分、重加算税賦課決定及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、不動産業を営む株式会社で、代表取締役は岡本清一(以下「原告代表者」という。)であり、昭和六一年二月期から昭和六三年二月期において、被告から法人税の青色申告承認を受けていた。

2  原告は、昭和六一年四月一九日付けで、被告に対し、昭和六一年二月期の法人税について、<1>光栄興業株式会社(以下「光栄興業」という。)に対し支払ったとする不動産売買の仲介業務に係る手数料五〇万円(以下「本件仲介手数料(1)」という。)、<2>中谷善秋(以下「中谷」という。)に対し支払ったとする和解金一五〇万円(以下「本件和解金」という。)を損金に算入するなどして、別表1の昭和六一年二月期の確定申告欄記載のとおりの確定申告をした。

3  原告は、昭和六二年四月二八日付けで、被告に対し、昭和六二年二月期の法人税について、不動産売買の仲介業務により受領した仲介手数料一三五〇万円のうち仲介手数料四〇〇万円(以下「本件仲介手数料(2)」という。)を光栄興業に支払ったとして本件仲介手数料(2)等を差し引いた残額四五〇万円を益金に算入するなどして、別表1の昭和六二年二月期の確定申告欄記載のとおりの確定申告をした。

4  原告は、昭和六三年四月二八日付けで、被告に対し、昭和六三年度二月期の法人税について、<1>光栄興業に対し支払ったとする不動産売買の仲介業務に係る手数料合計六〇〇万円(以下「本件仲介手数料(3)」という。)、<2>幸栄産業株式会社(以下「幸栄産業」という。)の代表取締役である竹田耕事郎(以下「竹田」という。)に対して支払ったとする損害賠償金一一五〇万円(以下「本件損害賠償金」という。)、<3>大昭和物産株式会社(以下「大昭和物産」という。)に対する貸付金に係る貸倒損失とする九九九万九九九九円及び神菱実業株式会社(以下「神菱実業」という。)に対する貸付金に係る貸倒損失とする七九三二万一六九九円の合計額八九三二万一六九八円(以下「本件貸倒損失」という。)、<4>高橋康人に対する貸付金に係る貸倒損失を債権償却特別勘定に繰り入れたとする一五四九万円(以下「本件債権償却特別勘定繰入額」という。)、<5>有限会社アーク(以下「アーク」という。)に対して支払ったとする利息金額一三七九万九九〇〇円(以下「本件支払利息」という。)をそれぞれ損金に算入するなどし、<6>不動産売買の仲介業務により受領した仲介手数料六〇〇〇万円のうち、ライズ株式会社(以下「ライズ」という。)に支払ったとする仲介手数料三〇〇〇万円(以下「本件仲介手数料(4)」という。)を差し引いた残額三〇〇〇万円、<7>大昭和物産、神菱実業、高橋康人及び株式会社ニッセン(以下「ニッセン」という。)に対する貸付金に係る受取利息合計六六六万三四五〇円(以下「本件受取利息」という。)を益金に計上するなどして、別表1の昭和六三年二月期の確定申告欄記載のとおりの確定申告をした。

5  被告は、右各確定申告に対し、平成元年六月三〇日付けで、別表1の本件更正等(1)欄記載のとおり、各更正をし(以下「本件更正(1)」という。)、重加算税賦課決定及び過少申告加算税賦課決定をした(以下、併せて「本件賦課決定(1)」という。)。平成元年七月三一日、これらに対して原告は異議申立てをしたが、被告は同年一二月二二日右異議申立てをいずれも棄却した。

6  被告は、平成二年五月三一日付けで、本件更正(1)及び本件賦課決定(1)を取り消し、同年六月二二日付けで、別表1の本件更正等(2)欄記載のとおり、各更正をし(以下「本件更正(2)」という。)、重加算税賦課決定及び過少申告加算税賦課決定をした(以下、併せて「本件賦課決定(2)」という。)。

7  被告は、平成二年一〇月一八日付けで、本件更正(2)のうち昭和六三年二月期分に対応する部分及び本件賦課決定(2)を取り消し、同年一〇月二二日付けで、別表1の本件更正等(3)欄記載のとおり、昭和六三年度二月期の法人税について更正をし(以下「本件更正(3)」という。)、重加算税賦課決定及び過少申告加算税賦課決定をした(以下、併せて「本件賦課決定(3)」という。)。

8  原告は、国税不服審判裁判所長に対し、平成二年八月一五日、本件更正(2)(ただし、昭和六三年度二月期分に対する部分は除く。)、同年一二月二一日、本件更正(3)及び本件賦課決定(3)について、それぞれ審査請求をした(以下「本件審査請求」という。)。

9  国税不服審判所長は、原告に対し、平成五年七月六日付けで、右請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同年八月一二日ころ、原告に送達された(甲一四の1、2)。

二1  本件は、原告が、被告に対し、本件仲介手数料(1)から(4)、本件和解金及び本件損害賠償金の原告による支払の事実を否認し、本件貸倒損失、本件債権償却特別勘定繰入額及び本件支払利息が原告の損失であることを否認し、本件受取利息が原告の収益であることを否認してした本件更正(1)から(3)及び本件賦課決定(1)から(3)はいずれも違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。

2  これに対し、被告は、<1>原告による本件仲介手数料(1)から(4)の支払の事実はなく、<2>本件和解金とされる一五〇万円の支払自体趣旨不明で和解金とは認められないから原告の損金に算入することはできず、<3>本件損害賠償金は原告ではなく原告代表者個人が竹田に支払ったものであるから原告の損金に算入することができず、<4>本件貸倒損失、本件債権償却特別勘定繰入額及び本件支払利息に係る貸付金は原告ではなく原告代表者個人に帰属するものであるから原告の損金に算入することができないなどと主張している。

3  なお、当事者の主張に係る所得金額及び翌期に繰り越される欠損金の金額は、それぞれ別表2の原告主張額欄及び被告主張額欄のとおりである。

三  争点

1  本件更正(1)及び本件賦課決定(1)並びに本件更正(2)のうち昭和六三年度二月期分に対する部分及び本件賦課決定(2)の取消しを求める訴え(請求一、三及び四に係る訴え)の利益の有無、適法性

2  原告による本件仲介手数料(1)から(3)の支払の有無

3  原告による本件仲介手数料(4)の支払の有無

4  原告による本件和解金支払の有無

5  原告による本件損害賠償金支払の有無

6  本件貸倒損失及び本件債権償却特別勘定繰入額の損金算入の可否

7  本件支払利息の損金算入の可否

第三争点に対する判断

一  原告は、請求の一及び二において、本件更正(1)から(2)のうち、昭和六一年二月期分に対する更正について「所得金額を三九五万六三六五円として計算した額を超える部分」の取消しを、昭和六二年二月期分に対する更正について「所得金額を五二〇万三九四八円として計算した額を超える部分」の取消しをそれぞれ求めている。しかし、別表1の確定申告欄によれば、昭和六一年二月期の確定申告においては欠損金の当期控除額を三九五万六三六五円とし、昭和六二年二月期の確定申告においては欠損金の当期控除額を五二〇万三九四八円として、法人税法二二条にいう「所得の金額」は〇円と申告しているのであるから、いずれも所得金額を〇円として計算した額を超える部分の取消しを求めるものと解される。

以下、その前提で検討する。

二  争点1(請求一、三及び四に係る訴えの利益の有無、適法性)について

本件更正(1)及び本件賦課決定(1)は、平成二年五月三一日付けで取り消されており、本件更正(2)のうち昭和六三年度二月期分に対する部分及び本件賦課決定(2)は、平成二年一〇月一八日付けで取り消されていることは前記のとおりであるから、右各更正及び賦課決定の取消しを求める請求一、三及び四に係る訴えはその対象を欠き、訴えの利益がないから、いずれも不適法である。

原告は、当初の更正について取消がされることに現実の利害関係があると主張するが、行政処分の全部が処分庁により取り消された場合には、その行政処分の法的効果は全て消滅するのであるから、原告の右主張は失当であり採用できない。

三  争点2(本件仲介手数料(1)から(3))について

1  証拠(甲二二、二三、二四の1、2、乙一、三の1から三、五から一〇、二七、二八の1、2、証人北尻裕二、同橋本秀雄(以下「橋本」という。)の証言(甲二の陳述書を含む。以下同じ。)、原告代表者の供述)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、神戸市須磨区緑ケ丘二丁目二九五番四ほかの土地及び同地上建物(以下「緑ケ丘の物件」おちう。)の売買契約に係る仲介業務を行い、昭和六〇年一二月二六日、右物件の売主である須磨温泉開発有限会社から仲介手数料一〇〇万円を受領した。

(二) 原告は、神戸市中央区北長狭通七丁目一二番の一ほかの土地(以下「北長狭の物件」という。)の売買契約に係る仲介業務を行い、昭和六一年一〇月三〇日、右物件の売主である株式会社橘興産(以下「橘興産」という。)から仲介手数料一三五〇万円を受領した。

(三) 原告は、神戸市中央区花隈町八六番二ほかの土地(以下「花隈の物件」という。)の売買契約に係る仲介業務を行い、昭和六二年八月五日、右物件の売主側の仲介業者である愛和住建株式会社(以下「愛和住建」という。)から仲介手数料一八六八万円を受領した。

(四) 緑ケ丘、北長狭及び花隈の各物件の取引に際し作成された各売買契約書には光栄興業又は橋本の記名押印はなく、右各物件の売買当事者はいずれも、大阪国税局職員に対し、橋本に会ったことがなく、光栄興業又は橋本の名を聞いたことがない旨供述している。

(五) 幸栄興業は、橋本ほかが代表取締役を務め、船舶運航業などを営む法人であったが、役員改選の登記をせず、かつ、営業を廃止する旨の届出をしなかったため、商法四〇六条三(休眠会社の整理)第一項の規定により解散したものとみなされ、神戸地方法務局加古川支局の登記官により昭和五九年一二月三日付けで職権による解散登記がなされた。

(六) 領収証四通(作成日付が昭和六〇年一二月二五日で額面五〇万円のもの、作成日付が昭和六一年一〇月三〇日で額面四〇〇万円のもの、作成日付が昭和六二年八月一〇日及び同月二〇日で額面がそれぞれ三〇〇万円のもの)にはいずれも作成者として「光栄興業株式会社代表取締役橋本秀雄」とのゴム印が押され、その上部又は下部の余白に「橋本秀雄」と手書きで書き加えられているが、右手書きの部分は、原告に対する税務調査中の被告から原告に対し光栄興業が既に解散登記されていることの指摘を受けた後から平成元年七月二〇日までの間に書き加えられたものであり、右領収書四通は当初は光栄興業名義で作成されていた。

(七) 橋本は、平成元年七月二〇日、長田税務署に対し、昭和六〇年分、昭和六一年分及び昭和六二年分の所得税の確定申告書を提出したが、昭和六〇年分については五〇万円、昭和六一年分については四〇〇万円昭和六二年分については六〇〇万円をそれぞれ所得金額として申告した。右申告の際に、右各所得を裏付けるものとして、前記領収証四通を提出した。

(八) 橋本は、平成元年七月二七日、昭和六一年度分の申告納税額の納税をしたが、その際使われた公金等納付依頼書は、電話番号欄には原告の電話番号が記載され、原告の従業員により氏名欄の橋本の氏名が記入されたものであった。

2  以上認定した事実関係を前提にして、以下本件仲介手数料(1)から(3)の支払の有無について検討する。

(一) まず、光栄興業は昭和五九年一二月三日には解散登記がなされていたのであり、右事実によれば光栄興業は右解散登記のころには実質的な経営活動が行われていない状態となっていたと推認されるから、営業実態はなかったと推認でき、前記領収証四通が光栄興業名義で作成されていることは不自然であるといわざるを得ず、これらの領収証は当初から架空のものであったことが疑われる。

(二) また、橋本の確定申告は、申告に係る橋本の所得金額が各年度とも本件仲介手数料(1)から(3)に対応する額のみである点で不自然であること、橋本の前記確定申告書は光栄興業が解散登記されていることの指摘を受けた後にまとめて作成されたものであること、前記領収証四通の橋本個人の住所氏名の記載はそのころに書き加えられたものであることに加え、前記公金等納付依頼書の電話番号欄の記載内容及び氏名欄の記載者によれば、橋本が右のような内容の確定申告をしたのは、専ら原告が本件仲介手数料(1)から(3)を支出したとの体裁を整えるためであったと推認される。

(三) 原告がその作成に係るものとして提出する取引台帳(甲四の1、2、4)及び振替伝票(甲一六、一九、二〇)には、本件仲介手数料(1)から(3)の支払に対応する記載がある。

しかし、右取引台帳及び右振替伝票が本件仲介手数料(1)から(3)の支払の当時に作成されたものであれば、容易に証拠として提出することができたはずであるにもかかわらず、右取引台帳は第一回口頭弁論期日から二年近く経過した第一一回の、右振替伝票は三年近く経過した第一四回の各口頭弁論期日において初めて提出されたことに照らすと、右取引台帳及び各振替伝票は、本件仲介手数料(1)から(3)の支払を裏付けるほどの証拠価値を有するとは認められない。

(四) 橋本は、本件仲介手数料(1)から(3)を取得した経緯につき原告の主張に副う供述をしているが、橋本の供述は、重要な点について、不自然若しくはあいまいな部分、不合理な変遷が認められ、他の証拠による裏付けに乏しい。加えて、本件審査請求に対する裁決書(甲一四の2)によれば、橋本は、本件審査請求時には、緑ケ丘の物件については、直接の仲介業務を行ったことはなく、手数料の受領についても定かでない旨、北長狭や花隈の物件について、物件の下調べはしたが直接の仲介業務を行ったことはなく、倒産した光栄興業の債権者らが債権を取立てに来たため、原告代表者に相談したところ、原告代表者から仲介手数料名目で四〇〇万円及び六〇〇万円を受領しその弁済に充てたことはある旨、当裁判所における証言とは異なった供述をしていることが認められ、これらを総合すると、橋本の供述は信用できないというべきである。

(五) 以上に加えて、橋本が現実に仲介業務に携わったことを窺わせる中立的な第三者の供述や書証が存在しないことを総合考慮すれば、本件仲介手数料(1)から(3)の支払の事実はいずれもなかったと推認される。右認定に反する原告代表者の供述は前掲各証拠及びそれにより認められる事実に照らし採用できない。

四  争点3(本件仲介手数料(4))について

1  証拠(乙九から一二、一七、証人田中政克(以下「田中」という。)の証言)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、神戸市中央区栄町通一丁目一三番一ほかの土地(以下「栄町の物件」という。)の売買に係る仲介業務を行い、昭和六二年三月三一日、売主側の仲介業者である愛和住建から仲介手数料六〇〇〇万円を受領した。

(二) ライズは、昭和五三年九月二九日に設立され、昭和五六年九月一日ころに、本店を大阪市西区江戸堀一丁目八番一五号から大阪市西区新町一丁目二五番一四号に移転した。

(三) ライズは、昭和六〇年八月三一日に不渡りを出し、当時その代表取締役であった田中は、昭和六一年九月ころにはその旨記載した休業届を税務署に提出し、法人税の申告書も昭和六一年八月期(昭和六〇年九月一日から昭和六一年八月三一日までの事業年度)までしか提出していない。

(四) 栄町の物件の取引に際し作成された各売買契約書にはライズ又は田中の記名押印はなく、右物件の売主及び買主の担当者はいずれも、大阪国税局職員に対し、右物件の売買契約及び代金決済は買主の事務所で行ったがその際に田中は立ち会っておらず、ライズ又は田中の名を聞いたことがない旨供述している。

(五) 領収証には、昭和六二年四月五日付けでライズが原告から三〇〇〇万円を領収した旨記載され、ライズの住所地として、作成日付当時の住所地ではなく昭和五六年には本店移転する前の住所地が記載されている。

2  以上認定した事実関係を前提にして、以下本件仲介手数料(4)の支払の有無について検討する。

(一) 前記1(三)で認定した事実によれば、前記領収証の作成日付のことにライズが正常な営業活動を行っている状態ではなかったことが推認されるうえ、右領収証に作成日付当時の住所地ではなく昭和五六年に本店移転する前の住所地が記載されている点も不自然であり、右領収証は架空のものであることが疑われる。

(二) また、田中は、栄町の物件に関しては、売買仲介業務はしていないことを自認しており、原告代表者の方から、付加価値をつけ採算の見通しをつけるために、右物件上の建物建築計画(プランニング)をするよう持ちかけられ、一、二か月かけて完成予想図や立体模型を作成し、原告からの報酬は三〇〇〇万円であったが、一二〇〇万円位の分を原告の方からの借入金の一部と相殺処理されたため、残りの一八〇〇万円位を原告の事務所で現金で受け取ったが現金はその場でいわゆる付け馬に持って行かれたと証言している。

しかし、田中の証言のうち一二〇〇万円分位を相殺されたとする部分については、相殺処理の対象となった借入金の発生時期や金額について何ら具体的な証言がなされておらず、右借入金の存在を裏付ける書証等もない。その余の一八〇〇万円についても、現金一八〇〇万円を付け馬に持って行かれたという証言内容自体不自然であるのに加え、金額が多額であるにもかかわらずそれを裏付ける領収証等も存在しないというのも考え難い。また、本件審査請求に対する決裁書(甲一四の2)によれば、田中は、本件審査請求時には、栄町の物件に関し、仲介手数料名目で原告から金員を受領したことはあるが、その金額は定かではなく、原告代表者を通じて融通してもらった借入金の元本や利息の支払があったため、これらの金額を差し引かれて受領しているかもしれないが、いずれにしても記録がないためその明細は不明である旨当裁判所における証言と食い違った供述をしていることが認められる。これらを総合すれば、原告から三〇〇〇万円の報酬をもらったとする田中の証言は信用できない。

(三) 以上によれば、本件仲介手数料(4)の支払の事実はなかったと推認される。右認定に反する原告代表者の供述は前掲各証拠及びそれにより認められる事実に照らし採用できない。

五  争点4(本件和解金)について

1  原告は、本件和解金について、高橋康人が決済するとの約束の下に、原告が約束手形を振り出して交付し、高橋康人は中谷に右約束手形を割り引いてもらったが、高橋康人は、右手形の支払期日になっても決済することができなかったため、原告は不渡処分を避けるため手形金額を供託したうえで、返済を求めてきた中谷と話し合った結果原告が中谷に対し一五〇万円を支払うことで和解が成立し、右和解に基づき本件和解金を支払ったが右手形は中谷から返還してもらっていない旨主張し、右主張に副う証拠として振替伝票二通(甲一五の1、2)及び原告代表者の供述が存する。

2  しかし、右約束手形の振出しについては、昭和六〇年二月期の原告決算書類(甲五)に記載されていないうえ、和解金を支払ったというのであれば右約束手形の返還を受けるはずであるから受け取っていないというのは不自然であるし、原告が主張するように手形金の一部を支払ったにすぎないから返還を受けなかったというのであれば代わりに領収証等を受け取るはずであるのにそのようなものを受け取ったという供述を原告代表者はしていない。また、右振替伝票二通には昭和六〇年三月一日に供託金の返還を受け、翌日に和解金として一五〇万円を支払った旨の記載がなされているが、右振替伝票が原告が主張するように本件和解金の支払があったころに作成されたものであるとすれば、容易に証拠として提出することができたにもかかわらず、第一回口頭弁論期日から三年近く経過した第一四回口頭弁論期日において提出されたものであることに照らすと、原告代表者の供述を裏付けるほどの証拠価値を有するとは認められない。

3  以上のとおり、原告が本件和解金を支払ったとする原告代表者の供述は重要な部分で不自然であり、原告による本件和解金の支払を裏付けるに足りる証拠が他に存在しないことを考え合わせると、原告による本件和解金の支払はなかったと認められてもやむを得ないというべきである。

六  争点5(本件損害賠償金)について

1  原告は、本件損害賠償金について、高橋康人及び高橋正子が竹田に対して債務承認履行契約(甲一二)に基づき負担する八四〇〇万円の債務について、竹田に対し、口頭で保証したところ、竹田が高橋らから右債権の回収ができなかったため、竹田と話し合った結果原告が一一五〇万円を支払うという合意ができ、右合意に基づき原告が小切手で支払ったものである旨主張し、右主張に副う証拠として確約書(甲三)、振替伝票(甲一三)及び原告代表者の供述が存する。

2  しかし、原告代表者の供述は、保証の時期、金額等について具体性を欠きあいまいなものであること、高橋らの右債務については公正証書が作成されているのに対し、原告は八四〇〇万円もの多額の債務に関する保証を口頭でしたということ自体不自然であること、小切手で一一五〇万円を支払ったというのであれば、当座預金の口座から右金額が出金されたことを証する証拠の提出が容易であるにもかかわらず原告の提出されていないことを考え合わせると、本件損害賠償金に関する原告代表者の供述は信用できない。また、確約書の記載も竹田が八四〇〇万円もの債権が回収不能になっていたにもかかわらず、一一五〇万円の支払を受けるのみで、それ以上の債務を免除するというもので、それ自体極めて不自然である。さらに、右振替伝票には、昭和六三年三月五日に一一五〇万円を支払った旨の記載がなされているが、右振替伝票は、第一回口頭弁論期日から三年近く経過した第一四回口頭弁論期日において初めて提出されたものであることに照らし、原告代表者の供述を裏付けるほどの証拠価値を有するとは認められない。

3  以上のとおり、原告が本件損害賠償金を支払ったとする原告代表者の供述は信用できないこと、他に本件損害賠償金の支払を裏付けるに足りる証拠が存在しないことを考え合わせれば、原告による本件損害賠償金の支払はなかったと認められてもやむを得ないというべきである。

七  争点6(本件貸倒損失及び本件債権償却特別勘定繰入額)について

1  原告は、本件貸倒損失及び本件債権償却特別勘定繰入額に係る債権について、別紙1(1)記載の神菱実業振出しの約束手形は、原告から神菱実業に対する貸付を行った際に受け取ったものであり、別紙1(2)記載の大昭和物産振出しの約束手形は、原告から高橋康人に対する貸付を行った際に受け取ったものであり、別紙2記載の高橋康人振出しの約束手形は、原告から高橋康人に対する貸付を行った際に受け取ったものである旨主張し、原告代表者は右主張に副う供述をしている。

2  しかし、証拠(甲五、乙二〇から二二、二四)によれば、大昭和物産振出しの約束手形は支払期日がいずれも昭和五九年四月五日、神菱実業振出しの約束手形は支払期日が最も早いもので昭和五九年七月二日、最も遅いもので同年八月一八日、高橋康人振出しの約束手形は支払期日が最も早いもので昭和五八年二月二四日、最も遅いもので昭和五九年四月一九日であるのに、昭和六〇年二月期の原告決算書類(甲五)には右各手形を受領したことが記載されていないこと、右書類のうちの「貸付金及び受取利息の内訳書」には幸栄産業に対する貸付金が記載されているのみで、右各手形に対応する貸付金の記載もないことが認められる。そして、原告は右当時青色申告の承認を受けていたのであるから、その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りょうに記録し、その記録に基づいて決算を行わなければならないにもかかわらず、右各手形の受領等の事実がしかるべき決算期の書類に記載されていないことについて、原告代表者は何ら了解できる具体的な説明を供述していない。また、証拠(乙二〇から二四)によれば、神菱実業は昭和五九年九月四日、取引停止処分を受け、大昭和物産の当該約束手形は支払期日の翌日に銀行取引停止処分のため支払を拒絶されているのに、原告は昭和六三年二月期の期末である同月二九日に初めて右手形を会計簿等に貸倒損失として計上していること、高橋康人振出しの手形は、支払期日から四~五年を経過した昭和六三年四月一四日になって初めて呈示されていることが認められる。以上に加え、本件貸倒損失に係る貸付金を原告に帰属することを窺わせる証拠が他に存在しないことを考え合わせると、本件貸倒損失は原告に帰属するものではないと認められてもやむ得ないというべきである。

八  争点7(本件支払利息)について

原告は、本件支払利息は原告の損金に算入されるべきであると主張する。しかし、甲一四の2によれば、原告は本件審査請求段階では損金算入を否認されたことを争っていないことが認められ、本件訴訟においても被告から求釈明されて初めて右主張をしていること、アークに対する債務の発生時期及び金額について原告から具体的な主張が何らなされていないこと、本件支払利息に関して原告代表者は何も供述していないことを考え合わせると、本件支払利息は原告に帰属するものではないと認められてもやむを得ないというべきであり、これを原告の損金に算入することはできない。

なお、大昭和物産、神菱実業及び高橋康人振出しの約束手形に係る貸付金に原告に帰属することが認められないことは前記のとおりである以上、右貸付金に基づく受取利息については、原告の益金に算入できないことも明らかである。

また、別紙3記載のニッセン振出しの約束手形及び小切手に係る貸付金に基づく受取利息についても、原告は、ニッセン振出しの約束手形は、原告から高橋康人に対する貸付を行った際に受け取ったものである旨主張し、原告代表者は右主張に副う供述をしているが、ニッセン振出しの約束手形は支払期日が最も早いもので昭和五九年五月七日、最も遅いもので同年九月二〇日であることは当事者間に争いがないのに、それらの手形の受取りについて原告の昭和六〇年二月期の決算報告書(甲五)には右手形を受領したことも、これに対応する貸付金があることも記載されておらず、ニッセン振出しの約束手形に係る貸付金が原告に帰属することを窺わせる証拠が他に存在しないことを考え合わせると、右貸付金についても原告に帰属するものではないと認められるから、右貸付金に基づくとする受取利息も原告の益金に算入できないというべきである。

九  本件更正等の適法性

以上の次第であるから、本件仲介手数料(1)から(4)の支払の事実はなく、本件和解金、本件損害賠償金、本件貸倒損失及び本件債権償却特別勘定繰入額はいずれも損金に算入すべきでなく、本件受取利息は益金に算入すべきではないことになる。そうすると、本件係争事業年度の原告の所得金額等は別表2の各事業年度の被告主張欄額のとおりとなるから、本件更正(2)のうち昭和六一年度二月期分及び昭和六二年度二月期分に対する部分及び本件更正(3)にはいずれも原告の所得金額を過大に認定した違法はない。また、原告が、右各支払の事実及び損金算入を前提として別表1の確定申告欄記載のとおりの確定申告をしたことは、昭和六三年二月期の法人税の確定申告に際し、所得金額、課税留保金額及び納付すべき税額について過少申告をしたと認められ、そのうち右各支払があったものとして確定申告したことについては、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し、それに基づいて納税申告書を提出したものと認められるから、本件賦課決定(3)は、本件更正(3)によって原告が新たに納付すべきことになる法人税額に基づき、国税通則法に従って適法に算出された過少申告加算税額及び重加算税額を賦課するものと認められる。

一〇  まとめ

よって、原告の本訴請求のうち、請求一、三及び四に係る訴えは不適法であるから却下することとし、その余の請求は理由がないものであるから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 徳田園恵 裁判官 西野吾一)

別表1 課税の経緯

<省略>

別表2

所得金額及び翌期に繰り越される欠損金の金額

<省略>

別紙1

約束手形の内訳(貸倒損失の対象とされているもの)

(1) 神菱実業(株)分

<省略>

(2) 大昭和物産(株)分

<省略>

別紙2

約束手形の内訳(債権償却特別勘定の設定対象とされているもの)

<省略>

別紙3

約束手形等の内訳

<省略>

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